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大阪家庭裁判所堺支部 昭和36年(家)202号 審判

申立人 小野ハナ(仮名)

(本籍 韓国 住所 申立人に同じ)

小野利子こと 事件本人 平田利子(仮名)

(本籍 事件本人に同じ 住所 大阪府)

平田里子こと 右親権者母 金蘭香〔仮名〕

主文

申立人が事件本人を養子とすることを許可する。

理由

調査の結果によると次の実情が認められる。

事件本人は、平田里子(朝鮮名金蘭香)が小野浩一との間にもうけた非嫡出子であつて、出生後主として平木蘭子によつて養育されてきたものであるが、小野浩一の家庭内の事情などのために、まだ同人に認知されていないし、また、平田里子においても現在のところ同人に対し認知請求の意思をもつていない。

ところでかねがね平田里子は、事件本人の出生の事情や現在の生活環境などから、同人には日本国籍を取得させてやりたい考えでいたところ、約二年前小野浩一との婚外関係を断つことにとりきめたところ、同人から事件本人の今後について、事件本人を同人方に引き取るか、或は同人の姉である申立人の養子にしてはどうかとの提案を受けていたので、昨三十六年三月頃、折から事件本人の小学進学期でもあつたしその将来を種々考慮した上、事件本人を申立人の養子とすることを承諾して申立人方へ引き取つてもらつた。

かくて事件本人は、申立人らの許で監護養育を受け、学校も近くの浜寺小学校に小野利子(外国人登録証には平田利子、通称名小野利子と記載されている。)として通学し、明るく順調に成育している。

申立人は、古谷作夫と二〇数年来内縁の夫婦として生活し、その生計はミシン部品製造下請業を営む夫作夫の収入(月額約二万数千円)によつて維持してきたもので、事件本人を引き取つて以後、作夫も事件本人をよく可愛がり、家族三名、事実上の養親子として平穏無事に生活しており、総じてその家庭的環境は経済的にも愛情の面においても事件本人を養育するに相応しい。ただ申立人と作夫とは、かなりの年令差がありその他の事情もあつてさし当つて婚姻の届出をする意思はなく、従前どおり内縁関係を継続するものである。

平木蘭子は、肩書住所で食料品商を営み現在のところ帰国の意思はないが、帰国するとすれば、むろん、兄弟ら近親者の居住する大韓民国にある肩書本籍地へかえるつもりである。

さて法例第一九条第一項によると養子縁組の要件に関する準拠法は各当事者の本国法によるべきであるから、申立人については日本法が適用され、事件本人については、上記認定の実情からみて、大韓民国法が適用されると解するのが相当である。

ところで上記認定の実情によると、本件養子縁組は事件本人の福祉のために望ましいものと認められ、かつ日本法の適用に関しては、申立人が古谷作夫と多年内縁の夫婦関係にあるので、民法第七九五条の趣旨にてらすと、早急に作夫との婚姻届をすませ、配偶者作夫とともに事件本人と養子縁組することの望ましいことはいうまでもないが、このことの速かな実現の望めない事情にある本件においては、その他の事情を考えあわせると、さし当つて申立人と事件本人との縁組を認めることも、上記法条の定める要件に反するものといえず、その他日本法所定の各要件をすべて充足しており、また韓国法の適用については、申立人が事件本人を養子とするについてこれを妨げる規定はないが、ただ同法は未成年者の養子縁組について法院その他国家機関の許可またはこれに類する処分を全く要件としていないので、本件縁組についてもわが家庭裁判所の許可を必要としないかのようであるが、未成年者の養子のために必要とされる裁判所その他の国家機関の許可の如きは、近代文明諸国における養子縁組制度の趣旨にてらし、単に養子の一方のみに関する要件ではなく養親養子双方に関する要件とみるのが相当であるから、韓国民法にその旨の規定がなくても、わが民法にその旨の規定がある以上、その適用を受け家庭裁判所の許可を得なければならない。

以上の次第で本件養子縁組は各当事者の本国法の定める要件をすべて具備し、事件本人の福祉のため許可するのが相当と認められるので、本件申立を認容することとし主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

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